| ワークショップ・講演録 |
| 講演日時 |
2003年6月25日(水) |
| 講演場所 |
大阪市立大学大学院 梅田サテライト 103講義室 |
| 講演者 |
放送大学教授 林 敏彦氏 |
| 講演テーマ |
ITと日本の社会経済構造 |
| 記録者 |
石島・上野(都市ビジネス専攻システムソリューション研究分野) |
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| (講師略歴) |
| 1943年鹿児島県生まれ。66年京都大学経済学部卒業。68年大阪大学大学院経済学研究科修士課程修了。72年米国スタンフォード大学経済学Ph.D。神戸商科大学商学部助教授、大阪大学経済学部、大阪大学国際公共政策研究科教授などを経て、2002年より放送大学教授。専門はミクロ経済学、応用ミクロ経済学、公共政策、情報経済学。 |
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| 1.講演要旨 |
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| (1)情報のプライシングについて |
パッケージ化された商品としての情報のプライシングを考えてみる。
デジタル・コンテンツは、タダに近いコストでパーフェクトなコピーができるところに特徴がある。すなわち、オリジナルとコピーの差がない。
デジタル・コンテンツは、限界費用≒0でオリジナルと同じものができる。したがって、市場競争の結果、価格はゼロとなる。生産するときには費用がかかるが、市場で流通するときに価格はゼロとなってしまう。
そこで、タダで無限に複製されることを防止する方策(制度、技術、法律)をとることになるが、これは、デジタル・テクノロジーの性格を無視したものである。 |
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| (2)コンテンツの費用の回収方法について |
| タダでコピー可能というデジタル・テクノロジーの性質を生かしつつ、コンテンツの費用を回収する方法として、いくつかの案が考えられる。 |
| @ |
民放方式……広告のスポンサーが負担する。コンテンツは視聴率を上げて広告を見てもらうための撒き餌である。 |
| A |
NHK方式……月極料金制でコンテンツ利用者が負担する。 |
| B |
社会主義方式……コンテンツ作成者を公務員とすることで費用負担する。 |
| C |
ライブとからませる方式……京都の文化財のデジタルアーカイブのように、本物を見たくさせる効果により、ライブで回収する。 |
| D |
コンテンツ作成者に払わせる方式……電話のように発信者(=コンテンツ作成者)に料金を払わせる。 |
| E |
コンテンツは無料、鍵は有料とする方式(超流通モデル) |
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| (3)サイバー空間のガバナンスについて |
サイバー空間の特徴は、ネットワークに皆が自分から接続してくれるところにある。サイバーテロは、ネットワークを混乱に陥れる。
インターネット・テクノロジーは「小さな巨大テクノロジー」である。多くの人間を巻き込むという意味で「巨大テクノロジー」である。それをどう御していくかが問題となるが、倫理だけで制御できるのか。
各国政府は、サイバー空間の一部にしか強制力を発揮できず、世界的に強制力を持つ機関はない。自発的遵守に頼りながら、秩序を維持できる方法はあるのか。
サイバー空間のガバナンスだけでなく、バイオ、クローン、ナノテクノロジーなどの先端科学技術に関するガバナンスが人類として重要な課題であり、科学技術のシビリアン・コントロールが必要となる。研究者は、シビリアンをどう説得するかというコミュニケーション能力が問われる。
トマス・クーンは、科学に従事する研究者の間でストックされた共有知と、事実で検証できない信念や価値観も含めた精神的構築物の総体を「パラダイム」と名付けた。やがて、その理論で説明できない現象や知識が一定限度を超えると、パラダイムは破壊され、全く新しいパラダイムに取って代わられる。このような根本的な考え方の転換を「パラダイム・シフト」という。(林敏彦『高度情報化社会のガバナンス』pp.254)
PCのQWERTYキーボードは、メカ式タイプライタの名残であり、最も打ちにくい配列であるにもかかわらず、これ以外のキー配列はことごとく退けられてきた。ある時点で優越性を確立したシステムが、劣悪なものであっても生存し続ける現象を「経路依存性」と呼ぶ。パラダイムは、人間の思い込みであり、常識を離れて考えることが重要である。
テクノロジーとシステムの組み合わせにより、予期せぬ結果を生じることがある。プログラム売買が原因といわれた米国のブラックマンデーがその一例である。ユビキタス・ネットワークの世界でも、このような「合成の誤謬」を回避するために、「サーキット・ブレーカー」をどこかに入れておかないといけない。
神戸・淡路大震災で、コミュニティFMやインターネットによる情報提供が効果を生んだ。しかし、これらにも、流言飛語のリスクがあり、利便性と危険性はウラハラである。人間は、自分に必要な情報を選別して使っている(「パーティ効果」という)。すなわち、情報は、文化装置(情報を受け取る人間の側の装置)を通って初めて意味を持つ。ところが、ICT(情報通信技術)の社会的インパクトを研究する機関が日本には存在しない。 |
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| 2.講演の論点 |
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高度情報化社会(テクノロジー社会)において我々はリアルな社会とバーチャルな社会を行き来しながら生活するようになったが、それらが進化して効用を求める余り、ブレ−キング・システムが消えてなくなってしまっている。そこで社会の秩序がおかしくなってきているので、本来の姿に戻らなければいけない。
バーチャル社会では、本来の姿に戻ろうとしたとき、接触(肌触り・コミュニケーション)ができないという不足点がある。
高度情報化社会からポスト情報化社会にかけての危機として、次のような可能性がある。 |
| @ |
リアル社会の危機が超高速ネットワーク上で増幅される可能性。 |
| A |
超高速ネットワークがもっている脆弱性が新たな危機要因となる可能性。 |
| B |
超高速ネットワークがリアル社会の変質をもたらす。 |
| C |
超高速ネットワークでエンパワーされた人間は、技術進歩や社会制度のガバナビリティを掌握するに至らず暴走する危険にさらされる。 |
| D |
これらの要因が合わさった複合危機が問題となる。 |
そこで現実に戻るためのブレ−キング・システムが必要となるが、それは壊れかけている。その例として、著作権や組織の問題が取り上げられた。
情報のプライシングでは、デジタル・コンテンツの性格として無料で無限に複製できるという性質をどう制御していくかが問題であるが、同様の事例としては、ナノテクノロジーが挙げられる。これらはレベルが高い科学技術になればなるほど出てくることであり、どう制御していくかが今後の課題である。 |
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| 3.講演に対する感想・意見 |
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情報のプライシングに関しては、現状、著作権料が高過ぎる。水のように安くすることが現実を改善する方法と思われる。一方、デジタルの良い部分を生かしつつ、供給側のモチベーションを生む仕組みの工夫が必要である。情報の経済的価値は、供給者が良いものを供給することから生み出される。 |
| ・ |
デジタル・エコノミー化は不完全な状況であり、ガバナンスの姿も見えていない。 |
| ・ |
既存の常識・偏見・枠にはまった考えを脱却することが必要である。科学技術による解決のみでなく、その背景となる人や文化が重要である。 |
| ・ |
サイバー空間の制御といっても、もともとサイバー空間は制御することを想定していない空間である。制御する者がいないためにグローバルに拡がったものであり、誰が制御するのかが問題である。 |
| ・ |
サイバー空間のガバナンスに関しては、サーキット・ブレーカー的な制御、フェイルセーフの仕組みの研究が必要である。 |
| ・ |
先端的なテクノロジーのシビリアン・コントロールについては、統制する側にも見識が必要とする意見と、素人(一般市民)の多数決によるべきであるとする意見があった。 |
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| (補 足) |
| ・ |
インターネットの標準やプロトコルを話し合うIETF(Internet Engineering Task Force)は、個人を参加資格とするゆるやかなグループであり、新たな国際的公共性概念の確立と権力機構に依拠しない執行方式に期待が集まっていくと思われる。(林敏彦『高度情報化社会のガバナンス』pp.267-8) |
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| (松田教授) |
| ・ |
テクノロジー社会は、効用が増大する一方、ブレーキング・システムが壊れかけている。 |
| ・ |
バーチャル社会では、人間の接触ができない。人間本来の世界(リアル社会)に戻ることも必要である。 |
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| (倉林教授) |
| ・ |
抽象的な概念について検討する、すなわち、深く考えることが麻痺している。 |
| ・ |
ナノテクノロジーについても、日本はハード面は進んでいるが、ソフト面が弱い。現在、ソフトウェアの供給についてのビジネスモデル作りが課題となっている。 |
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| 4.キーワード |
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情報のプライシング |
| ・ |
サイバー空間のガバナンス |
| ・ |
パラダイム・シフト |
| ・ |
経路依存性 |
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合成の誤謬 |
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サーキット・ブレーカー |
| 以上 |
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